2010年3月26日金曜日

ステファーノ・グーグルアイIII世への道(9) ついに卒業式

(友人撮影)


午前4時50分。
セットした目覚ましが鳴って目が覚める。

布団に入ったまま顔を横に向けると、
昨日夜2時までかかってつくったトレハロース星人がうつぶせに寝ている。
そうだ。夢じゃない。今日はいよいよ卒業式だ。

起きてスーツに着替え、
朝ごはんも食べないまま、始発電車に乗るべく駅に向かう。
春は近いとはいえ、雨も降って寒い。暗い。
なんたって、卒業式という戦場に続く道だ。

あつらえたような天気で、いいよ。
俺はぜんぜん構わない。



電車が来て、乗り込む。
周りの人がみんな、俺が抱えてるこの白い物体はなんなのか、ガン見したい衝動を必死に抑えているような気がする。
そして俺は、周りを見回してそれを確かめたい衝動を必死に抑えていた。



午前6時頃。
会場の、みやこめっせに着く。
まだ開いていないのは予想通りだが、
仮装してる人も、スーツの人も、誰一人として並んでいない。

あれ? 会場ここであってたっけ?と、表に出ていた「卒業式会場」の看板を確かめ直す。
間違いない。ここだ。なのに誰もいない。


募る孤独感。



午前6時20分頃。
よく見るとみやこめっせの中に人がいる。
どうやら他に入り口があるらしい。
探すと、警備員用の入り口から、おばちゃんたちが入って行く。
しかし、おばちゃんたちは会場設営の人かなにからしく、卒業生はまだ入れないと言われた。
あと少ししたら開くと言われ、再び正面に戻る。



午前6時40分頃。
警備員さんが扉を開けにくる。
依然として、卒業生っぽい人は俺一人だけだ。
寒いのでひとまず中に入っておこう。



午前7時過ぎ。
中をうろうろしていると、股間に馬の頭をつけた3人組がいる。
躊躇しつつ「すいません、仮装する人ですか?」と話しかける。
まあ聞く意味もないけど、一応ね。
ドンキホーテの袋を片手に、彼らは陽気に「あ、そうですよ」と答える。

ちなみに、
事後の新聞記事を見た限りでは、彼らが一番メディア露出が多かったように思える。
複数人での息の合った連係プレーがすごい。
彼らは勝ち組です。おめでとう!

しかし、みやこめっせ内で迷っている状況は同じらしい。
いっしょに、会場がどこかを警備員さんに何回も聞いて、階段を往復すること3回。
ようやく会場を突き止め、扉の前に陣取る。



ほっと一息ついて、
軽く自己紹介とかし合う。

自分でしといて言うのもなんやけど、
仮装をするひとってもっとクレイジーで話の通じない人だと思っていた。偏見。
ほんと、出会ったのがいいひとたちでよかった。



午前8時ごろ。
ぽつぽつ人が来はじめる。
最初は大学関係者が、
そしてだんだん、振り袖のひととかも。

トレハロース星人を片手にベンチに座っていると、
「あ、すいません、写真撮ってもらっていいですか?」と聞かれる。
振り向くと、振り袖の女の子2人が立っている。
あ、いいですよ。と答えると、カメラを渡された。
あれ?と一瞬戸惑って、ふと気付く。
そうか「撮ってもいいですか」じゃなくて、「撮ってもらってもいいですか」やねんな。
自意識過剰が恥ずかしい…。

でも、2人を撮った後、
「撮ってもいいですか」という流れになって、
今日、初カメラ。カシャっという撮られる音が心地よかった。



午前8時半ごろ。
そろそろ仮装しとこうかな、と思ってかぶる。
俺はもはや匿名の「中の人」に成り果てた。


目の前で、おっさんが「おっ、これは面白い」みたいな顔をしてカメラを向けてくる。
と、その横に同級生がいる。
あ、あいつの父親なのか。そういえば似ている。
しかし、同級生はトレハロース星人が俺であると気付いていない。
これは脱いで気付かせた方がいいかな、と思って脱ごうとする。

すると意外とタイトでひっかかって脱ぎにくい。
あれ? 脱げない。うーん。こうか。
みたいに手間取りつつ脱ぎ終わる。
しかし、周りを見回してもさっきの同級生はもういない。
う、遅かった。脱ぎ損だ。



午前9時前。
仮装の中は空気がこもって暑い。
俺は汗だくで、湿気の余りトレハロース星人の目が曇ってゆく。
まだかー。

と思ってると、開場にはまだ時間があるけど、
ちょこちょこ人が入って行く。
じゃあ俺も入ってみようかな、と思うけど、
なんということか、手がないトレハロース星人にはドアが開けられない。
文字通り手も足もでないのだ。あ、足は見えてるけど。
途方に暮れていると、
おばちゃんが「あ、開けたげるし写真一緒に写ってくれます?」と聞いてきた。
もちろんありがたく申し出を受けさせてもらって、無事中に入れた。


中は広い。
馬の人たちは真ん中の方に行ったけど、
俺は、「それでっかいからあんまり邪魔になるとこにいったらあかんで」と大学の人に言われ、
左前の端っこの方に陣取ることになる。
まあ、別に目立つとかが目的じゃないしいいんです。
(じゃあなにが目的かって、それはまた次回!)



中ではいろんな知り合いに会う。
いちばんびっくりしたのは、
「ちょっとお話いいですか?」と聞いて来たのが、
世界こども水フォーラムフォローアップ大会で知り合ったひとだったこと。
向こうはテレビ局のレポーターで、まさか仮装の中身が俺だとは思わず話しかけてきた。
俺が名乗ると「ええっ? なにやってんねん!」という反応。
まあそらそうな。俺が逆の立場でもそう思う。
しかし、こっちは向こうのことわかるのに向こうはこっちのことがわからないという、
一方向的なコミュニケーションがずるい。申し訳ない。


ちなみに、インタビュー自体は、
声がこっちからあっちにも、むこうからこっちにも聞こえにくいのでうまく答えられないのと、
あんまり面白い受け答えができなかったのと。
せっかく話しかけてくれたのに申し訳なかった。




また、同じサークルだった子も来てくれて、
上に載せた写真を撮って送ってくれた。
なんせトレハロース星人には手がないから自分撮りはできないし、
なにより、本人は卒業しないのにわざわざ来てくれたことがすごくうれしかった。
ほんとありがとう!




そしてそうこうしてるうちに式が始まる。
総長のスピーチは、要は「地球はやばいからみんながんばってね」みたいな感じの殺伐とした、
なんで門出の祝いの場でこのチョイスなんだろうと思わずにはいられない内容。
教育予算が減ってるんだ。とかいうのを卒業式で言っちゃうってどうなん?
それは俺らに向けられたはなむけの言葉じゃなくて、単に国にお金をねだる言葉だ。
眠さを通り越してもはやいらっとくる。
(これに関しても次回また)


校歌と蛍の光は、俺の真ん前にいた合唱隊がメインで歌う。
こんな宇宙人を目の前にして、気が散ったりしなかったかな。
したらほんと申し訳ない。



式はさくっと終わり。
その後は、壇上に仮装をした人が集まって記念撮影をする。
なんかこうして見回すと、
俺みたいに自作じゃなくて、どっかから買って来たようなやつが多い。
もうちょっとDIY精神を発揮してもいいんじゃない、京大生?



その壇上からおりる時に、
高校の同級生に偶然会った。
3年ぶりの再会。
まさかの形で実現してしまった笑



帰りの道は、人でごった返している。
押しつぶされそうになりながら、仮装のまま外に出ようとする。
これだけ接近すると逆に緊張感がなくなるのか、
目の部分を断りなくコンコン叩いて「あ、固いんや」と言うひとがいたり、
「ここ穴開いてるからバンソコウ貼っとくで!」と目の穴を塞ぐおっさんがいたり、
なんかいろいろいじられた。
まあなんも構ってもらえないよりはうれしいけど。
でも宇宙人に対して、もう少し敬意をもって接してもいいんじゃない?
京都はそういう、ホスピタリティーの街じゃなかったのか。
けしからん!!
とステファーノさんの気持ちになりきって憮然としてみる。




開場を抜けて、横断歩道をわたって、
ようやくそこでトレハロース星人を脱ぐ。
涼しい風が頬に当たる。

地面に横たわる抜け殻をみると、
ヒゲが片方とれ、触角もなんだか角度がおかしい。
そうか、いろいろもみくちゃにされたんやな。
まあいいや。
みすぼらしいかもしれないけど、いつからヒゲ外れてたかわからへんけど、
おつかれさま、と褒めてやりたい。


終わった。やりきった。
不安だったけど、俺はやりきった。
なにか意味があることをしたわけじゃないけど、
やりきったと言って間違いじゃないと思う。

よかった。





以上、当日の様子でした。
次は、「ステファーノ・グーグルアイIII世への道」最終回、
なぜこんなことをしたのか、という部分を書きます。
お楽しみに!

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