2010年11月15日月曜日

中西準子「食のリスク学―氾濫する「安全・安心」をよみとく視点」

食のリスク学―氾濫する「安全・安心」をよみとく視点食のリスク学―氾濫する「安全・安心」をよみとく視点
中西 準子

日本評論社 2010-01-09
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今年の文化功労者に選ばれた、中西準子の著書。

中西は「環境リスク学」という分野を確立した元東大教授で、
リスクを定量的に評価して比較することの重要性を説いている。
この本に書いてあることも、従来の主張の繰り返しで、
目新しいことはそんなにない気がする。

でも、この本には、前の著書には書かれていない、
「リスクとは何なのか」という根本的な部分が説明されている。

西原理恵子の「この世でいちばん大事な「カネ」の話」という本に出てくる、
「その国の貨幣価値がわかる3つの質問」を引用しつつ、次のように書いている。

…第一は汁そば一杯はいくらですか? 第二は、玉子一個いくらですか? そして第三は、人一人殺すといくらですか? など。
 この三つの質問をすると、その国の経済価値がよく分かると西原さんは言っています。そして、人一人殺すとベトナムで二十万円という話が出ています。
(中略)
 逆から考えてみましょう。三番目の質問に対する答え、二十万円が命の価値、命の値段を示す一つの指標だということは誰でも分かるでしょう。命が失われようとするときに、この金額を支払えば助けることができるのに、それができないということです(社会的、統計的な話ですが)。そのお金がないために、命を失っているということです。


つまり、命はお金だという。
さらに中西はこう続ける。


 貨幣価値の違いは、命の値段の違いを示しています。その違いは、リスクに対して支払いができるかどうかによって決まっているのです。お金があればリスクを回避できます。つまり、お金がかかることそのものが、リスクなのです。

リスクとはお金であり、
そのお金を支払えないために、
健康や、ときには命さえ失われていく。


中西は、
経済的なゆとりがないために病院に行くことができず、
結核に苦しみ続けたという自身の小学校時代を回想して、
自分にとってのお金は、「健康」であるという。


なのに、

命を救うお金が、
減らす必要のないほど小さいリスクにつぎ込まれる一方で、
多くのひとを危険に晒しているリスクには使われない。

「ゼロリスク」の幻想に振り回され、
政治的・パフォ−マンス的に、
非合理な金の使い方がされる。

なぜリスクを定量的に評価し、比較することが大事なのか。
それは、リスクとはお金であり、
お金は有限だからだ。





彼女の憤りは、そうした現状から生まれて、
ファクトを見つめる研究に注がれる。

俺が中西準子を好きなのは、
その背後に、凛とした、負の力を感じるからだ。

怒りとか、
恨みとか。

そういうネガティブなものを、力に変えて闘う、
けれど思想に突き動かされるのではなく、
ただただ事実を求め続ける。

そんな研究は非常に希有だと思う。
思想に振り回される研究ならいっぱいあるけど。


個人的には、環境リスク学はあんまり好きじゃない。
あらゆるものを数値化、モデル化してしまえるということに疑問を感じるし、
リスクが均一でない場合のことがあまり想定されていない気がする。

だから、納得はするけれど賛成はできない。

それでも、この信念を認めざるを得ない、
そんな力を持った研究だと思う。



身近なことが知りたい人は標題の本、
環境リスク学についてもうちょい詳しいことが知りたい人は下の本を。
いろんな分野の人に読んでほしい本。


環境リスク学―不安の海の羅針盤環境リスク学―不安の海の羅針盤
中西 準子

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